弁護士という仕事がら、「交渉」は避けては通れません。
しかも、私は家庭のトラブルを多く扱う家系弁護士です。
家庭の問題はややこしくて、時にドロドロした深刻な紛争に発展します。
ですが、私はできるかぎりお互いに円満な解決をめざす方向での交渉を心掛けています。
<目次>
1.交渉には2つの型がある⁉︎ 〜分配型交渉と統合型交渉
2.家庭のトラブルは統合型交渉で円満解決をめざす
3.まとめ 〜交渉の目的は「駆け引き」ではない
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1.交渉には2つの型がある⁉︎ 〜分配型交渉と統合型交渉
弁護士は、トラブルを解決するのが仕事ですから、交渉することを避けて通ることはできません。
特に、私が多く扱っている家庭のトラブルは、時に深刻な紛争になりがちですので、こうした問題を解決するためには、様々な交渉が必要になります。
そこで、私は、昨年交渉学の勉強を始め、交渉アナリスト2級の資格を取りました。
実は、弁護士であっても、交渉学という学問をきちんと体系立てて勉強している人はそれほど多くありません(法科大学院でも必修科目ではないと聞いたことがあります)。
多くの弁護士は、経験と勘に頼って交渉しているのが実情なのですが、交渉学という学問をきちんと勉強してみると、改めて学ぶものは大きかったと思います。
交渉には、分配型交渉と、統合型交渉という二つの型があると言われています。
分配型交渉とは、交渉者同士が競争関係のもと、お互いに相手からより多く取り分を奪おうとするもので、いわゆるwinーlose型交渉と言われるものです。
統合型交渉とは、交渉者同士がお互いに協力しあって、お互いの利益の総額をより大きくするような創造的な解決策を探し出そうとするもので、いわゆるwinーwin型交渉と言われるものです。
わかりやすい例で言えば、ある姉妹が1つのりんごをめぐって取り合いをしています。
この1つのりんごを半分に切ってお互いに半分ずつ得るのが分配型交渉と言えるでしょう。
他方で、姉妹がりんごを欲しがる本当の理由をよく調べてみると、姉はりんごの皮を使ってジャムを作りたい、妹はりんごの果肉を使ってジュースを作りたいということがわかりました。
そうであれば、1つのりんごを半分に分けても、お互いの利益は最大化できませんよね。
この場合には、むしろりんごの皮をすべて姉に与え、果肉はすべて妹に与えた方が、お互いの目的や利益を最大化することができ、まさにwinーwinの解決に至るのです。
これが統合型交渉と言われるものです。
2.家庭のトラブルは統合型交渉で円満解決をめざす
私も、実際の事件の解決をめざして交渉する場合、できる限りこの統合型交渉をめざして交渉しています。
たとえば、夫婦の離婚の事件の解決を考えてみましょう。
夫婦の離婚の話し合いで、最初は財産分与(夫婦間の財産関係の清算)や慰謝料の金額などが交渉の主要な争点だったとします。
相手からお金をいくらとるのか、いくら払うのかという点は、まさにお互いに相手からより多く取り分を奪おうとする分配型交渉の典型です。
限られたパイ(夫婦の財産など)について、どちらがより多くとるかという視点だけで交渉している限りは、夫婦は互いに譲りません。
それどころか、それまでの婚姻生活で溜まりに溜まった恨み辛みがお互いに出てきて、大変ドロドロした紛争に発展してしまいます。
しかし、この夫婦に幼い子どもがいたとします。
視点を、お金の奪い合いというところから、子どもの将来という点にいったん移してみるとどうでしょう?
子どもの将来を考えた場合に、夫婦がお金をめぐっていつまでのドロドロとした紛争を続けていることは果たして得策でしょうか?
まともな親であれば、自分の子どもの幸せを考えない親はいません。
子どものことを考えて、お金の争いはもういい加減終わらせようという発想が出てきます。
そして、たとえば親権は母親がとった場合には、親権者でない父親には養育費の支払義務が生じます。
養育費は子どもの将来にとって非常に重要なものですので、むしろ、この養育費の取り決めをしっかりやっておくことが大切です。
そうすれば、親権者として子どもを養育する母親としても、多少は安心して今後の子育てを行うことができます。
また、親権者でない父親にとっても、また子どもの成長にとっても、父親と定期的に交流する面会交流の機会は重要なものになります。
そこで、これも子どもと父親との関係を考慮して、面会交流のルールや取り決めをしっかり行っておくことが大切になります。
これによって、父親は、最愛の子どもと定期的に会って触れ合うことができる機会が保障され、離婚後もがんばって仕事をして子どものために養育費をしっかり払おうというモチベーションも高まります。
このように、当初はお金をめぐって泥沼の争いをする分配型交渉から、子どもの将来に視点を広げることで、ある意味お互いwinーwinの統合型交渉によって、円満に解決する道が開けてくるのです。
3.まとめ 〜交渉の目的は「駆け引き」ではない
日本では、アメリカと違い、まだ交渉学という学問領域がメジャーになっていないこともあり、「交渉」というと、駆け引きとか、黒を白と言いくるめるなど、どちいらかというとネガティブなイメージがあります。
それは、交渉については、上記の分配型交渉のイメージしかないからではないでしょうか?
しかし、上記で見たように、交渉の真の目的は、駆け引きを行うことではありません。
むしろ、統合型交渉のように、お互いに剥き出しの奪い合いの状態から一歩冷静になって考え、何がお互いにとって(あるいは2人の間の子どもにとって)真の利益になるのかを探り、最終的には紛争を円満に解決するのが、交渉の本来の目的ではないかと思います。
ただし、統合型交渉を行うためには、目先の利益ではなく、お互いに何が真の利益になるのかについて、ある程度客観的かつ冷静な観察・分析が必要となります。
しかし、泥沼の紛争の渦中にある当事者同士では、なかなか客観的かつ冷静にお互いの真の利益が何なのかを探ることは難しいのが現実です。
ですから、やはり紛争の円満解決を目指すためには、客観的かつ冷静な立場にいる第三者の存在が重要であろうと思います。
その点は、交渉のプロである弁護士が代理人となって相手方との交渉にあたることが、真の円満解決をめざす統合型交渉を効果的に行うためにも必要であろうと思います。
【編集後記】
今日は、ほぼ3ヶ月ぶりに裁判所にでかけます。
それも、東京ではなく、福島県のいわき市の裁判所です。
私が担当している福島原発事故の裁判です。