人の話をしっかりと聞く、というのは、日常でも仕事でも重要だと思います。
ところが、この人の話を聞くというのが苦手という人は少なくありません。
人の話を聞く力、すなわち傾聴力を身につけるにはどうしたらよいのでしょうか?
<目次>
1.話し上手は聞き上手?
2.傾聴力をつける5つのポイント
3.まとめ ~ 傾聴力は誰でも身につけられる
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1.話し上手は聞き上手?
私は、離婚や相続などの家庭の問題を扱う家系弁護士ですので、泥沼の紛争の渦中におられる当事者の方からお話をお聞きする機会は少なくありません。
家系弁護士としては、こうした方々のお気持ちを含めてお話をしっかりとお聞きする傾聴力は欠かせません。
複雑な紛争であればあるほど、当事者のお話をしっかりとお聞きしなければ、良い解決をすることができないからです。
弁護士だけでなく、日常やビジネスの場など、様々な場面においてこの傾聴力が必要となることがあると思います。
しかし、人の話を黙って聞くというのはなかなか苦痛な作業でもあります。
それだけに、人の話を聞くのは苦手という人も少なくありません。
人は誰しも、他人の話を聞くよりも、自分の話を聞いてもらいたいものです。
ですから、世の中のビジネス書を見ても、プレゼンテーションの方法など、話し方に関するものは少なくありませんが、聞く力、つまり傾聴力に重点を置いたものはまだそれほど多くないのではないでしょうか?
しかし、実は、話し上手は聞き上手ということもあります。
かの有名な、デール・カーネギーの名著である「人を動かす」にも、ただ相手の会話を傾聴していただけで、逆にこの人はとても話し上手だという好評判を立てられたというエピソードが出てきます。
そう、会話上手、話上手な人ほど、実は相手の話をよく聞いているものなのです。
人の話を根気強く聞いていると、話している方は、自分の話をしっかりと聞いてもらえたという満足感が大きくなります。
ですから、自然と聞いてくれた人に大きな好感を寄せるようになり、逆に聞いてくれた人の話も積極的に聞いてくれるようになるということでしょう。
2.傾聴力をつける5つのポイント
それでは、こうした人の話を聞く力、すなわち傾聴力を身につけるにはどうしたら良いのでしょうか?
私が、家系弁護士としてこれまで多くの方々からお話をお聞きしてきた経験をもとに、考えてみたいと思います。
(1)一定の時間は「聞く」ことに徹する
私の場合、特に新規のご相談者との面談の際には、まず最初の15分から20分はひたすら相談者のお話をお聞きすることだけに徹します。
もちろん、お聞きしながらメモを取ったりしながら、頭の中では、その相談者のお悩みを法的に解決するにはどういう方向性になるかということを考えながら聞いてはいます。
しかし、お話の途中でさえぎって私が質問したり、何か意見を言うということは原則しないようにしています。
そして、15分から20分お話をお聞きして、あらかた相談者の方が言いたいことをある程度おっしゃった段階でこちらの意見などを話し始めるようにしています。
この最初に聞く姿勢を示すことは、相談者に必要なことをもれなくお話いただく上でもとても重要です。
(2)早い段階で交通整理をしたり、相手の話を遮らない
相談者のお話をお聞きしていると、つい自分の頭の中にある法律的な要件に合わせて質問をしたくなります。
また、相談者のお話があまり関係のない方向に脱線することもあります(相談者の方は法律の専門家ではないのでそれはある意味仕方のないことです)。
そうしたときに、相談者のお話の途中でそれをさえぎってこちらが質問をしたり、相談者のお話を交通整理したくなります。
ですが、あまり早い段階でそれをやってしまうと、相談者の方には不満がつのります。
この弁護士は自分の話ばかりして、相談者である私の話をちっとも聞いてくれないという感想を持たれる方もいます。
そこで、上記の(1)とも関係しますが、私はとにかく最初は相談者に自由にしゃべっていただき、極力途中で交通整理や質問をしないようにしています。
そうして、ある程度相談者が話したいことを話した後に、こちらが質問をしたり、交通整理をすれば、相談者はもう話したいことは話してある程度満足感がありますので、こちらの質問などにも気持ちよく答えていただきやすくなります。
(3)話しやすい雰囲気作りに気を配る
初対面の方と話をするときは、誰しもある程度は緊張します。
法律事務所を訪れる方も、最初は大変に緊張されている方が少なくありません。
ですから、私は、なるべく最初から相談者の方が話しやすい雰囲気を作ることに配慮しています。
いきなり本題に入るのではなく、少し天気の話などをして和ませてから本題に入るようにしています。
さらに、相談者が話をしている間も、できるだけ自分の顔の表情を柔らかくし、しっかりと相づちを打つようにします。
相づちも、うなずくだけでなく、「なるほど」「ほう」「それで」「確かに」など、できるだけ声に出して表現するようにします。
そうすれば、話をする方も非常に気分良く話をすることができます。
(4)相手の言うことを否定しないで、共感の姿勢を示す
さらに、相手の話が明らかに間違っていたり、矛盾していたりした場合でも、「それは違います」「それはダメです」などといった否定的な言葉は使わないようにしています。
否定的な言葉を使われてしまっては、相談者もそれ以降はとても話しにくくなってしまいます。
そうではなく、たとえば相談者が間違ったことを言っていたとしても、「確かにあなたのお気持ちは分かります」「しかし、法律的にはこういう結論になってしまうのです」というように、いったんは相談者に共感の姿勢を示した上で、こちらの伝えたいことを言うことが重要だと思います。
その方が、相談者もいったんは自分の気持ちに共感を示してもらえたという満足感がありますので、その後でこちらが述べることについても素直に聞いていただけることが多いのです。
(5)相手の言いたいことを要約してあげる
相談者の話が長くなってきた場合には、こちらの方で「要するに、おっしゃりたいことはこういうことですね?」と要約してあげることです。
そうすると、相談者の方に、こちらがきちんと話を聞いているということが伝わり、より信頼関係が深まります。
ただし、せっかく要約したとしても、それが見当外れな要約だった場合には、「この人全然私の話をちゃんと聞いていないな」と思われ、逆に不信感をもたれてしまいますので要注意です。
3.まとめ ~ 傾聴力は誰でも身につけられる
このように、傾聴力を身につけるための5つのポイントを示しましたが、いずれも特に難しいことではありません。
多少の忍耐力はいるかも知れませんが、訓練すれば誰でも傾聴力を身につけることは可能だと思います。
世の中では、営業トークなどの話すテクニックばかりがもてはやれている感じがあります。
しかし、そのような話すテクニックを身につけるよりも、傾聴力を身につける方が簡単ですし、相手の信頼を早く勝ち取る近道だと思います。
【編集後記】
5月、6月とおとなしかったのですが、今週に入ってから急激にお問い合わせや新規のご相談、事件のご依頼が相次ぐようになりました。
何かが動き始めるような予感がします。
バタバタしますが、平常心を忘れないで乗り切りたいと思います。