法律事務所の運営は,弁護士だけではなく,事務所の職員さんによって支えられています。
この法律事務所職員の仕事の内容も,昔と今ではかなり変わっており,求められる能力も変わってきています。
<目次>
1.法律事務所の運営は,事務所の職員によって支えられている
2.法律事務所職員の仕事の今昔
3.今の法律事務所職員に求められる3つの能力
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1.法律事務所の運営は,事務所の職員によって支えられている
法律事務所は,弁護士だけではなく,事務員と呼ばれる事務職員(スタッフ)がいるところが多いです。
この法律事務所職員という仕事は,法律事務所を縁の下で支えるともて重要な業務です。
コロナで少し事情は変わりましたが,もともと弁護士の仕事というのは,事務所の中にいるだけではなく,外出していることも多い仕事です。
ですから,弁護士が外出している間の問い合わせの対応など,いわば事務所の留守を預かる事務員さんにかなり助けられています。
こうした問い合わせへの対応,接客(お客様を相談室までご案内し,お茶を出し,アンケートを回収するなど),掃除,簡単な書類作成,裁判所との手続き的なやりとり, 各種調査業務,会計管理など,法律事務所職員の仕事の範囲は多岐にわたります。
ただ,この法律事務所職員の仕事の内容は,時代によって今と昔ではかなり違ってきています。
2.法律事務所職員の仕事の今昔
(1)昔の法律事務所職員の仕事
その昔,戦前の弁護士が書いた本などを読むと,当時の法律事務所の事務員さんは,事務員というよりは,いわゆる書生に近い形で,将来弁護士をめざす若者などが,弁護士先生の自宅に住み込みで働いているようなスタイルだったようです。
仕事の内容は,弁護士の補助的な業務のみならず,自宅での食事の支度や掃除洗濯など,あらゆる下働きをさせられていたようで,いわば相撲部屋の若い衆のような感じだと思います。
それが,戦後になって,事務員さんの職業的な地位も向上し,書生のようなスタイルから,徐々に労働者としての地位を確立していきます。
それでも,昔の事務職員の仕事は,やはり接客と電話対応や事務所の掃除,弁護士へのお茶出しや場合によっては食事の準備など,補助的で家事的な業務が多かったようです。
また,ひと昔(ふた昔?)前までは,タイプライターを打ち込むというのも事務職員の重要な業務でした。
すなわち,まだパソコンが普及していない時代は,弁護士が手書きで裁判所に提出する書面(訴状や準備書面など)を作成し,それを事務職員がタイプライターに打ち込んで完成させるというスタイルが一般的だったようです(さすがに私もこの時代は知りませんが)。
そのときに重要な職員の能力としては,弁護士が書く字のくせを覚え,様々な崩し字や下手くそで読めないような字でも,正確に早く解読してタイプに打ち込むという技量でした。
しかし,こうした特殊な技量は,その後のパソコンの普及によって不要な技術となってしまいました。
(2)今の法律事務所職員の仕事
今は,弁護士は自分でパソコンを使って文章を作りますので,職員さんにタイプを打ち込んでもらうという仕事はなくなりました(もっとも,今でもパソコンを使えない弁護士が存在すると聞いたことはありますが,ほぼ絶滅したといっても良いでしょう)。
また,昔は法律事務所にかかってくる電話は多かったものですが,今ではメールなどでお客様とやりとりをする弁護士は増えていますので,事務職員の電話対応の仕事は昔よりは減っています。
また,接客についても,コロナの影響でお客様とオンラインで打ち合わせなどを行う機会が増えていますので,お茶出しなどの仕事も昔よりは少なくなっています。
したがって,今では,単純な補助的な業務は昔に比べて少なくなっていますが,その分今の事務職員の仕事の内容はかなり高度化していると思います。
たとえば,弁護士が書くべき訴状や陳述書などの下書きを事務職員にお願いすることも増えています。
また,強制執行手続きや破産の手続きなど,手続きをほとんど事務職員に丸投げでお願いすることもあります(もちろん,弁護士がきちんとチェックしながら進めるのは当然ですが)。
さらに,中規模以上の事務所であれば,事務所全体の会計関係の専門スタッフを置いている事務所もあります。
また,いわゆる大規模な事務所であれば,企業のように経理部,人事部,さらに広告やマーケティングの専門部署などを置いているところもあります。
このように,現在の法律事務職員の仕事の内容は,昔と比べてかなり高度化,ハイテク化してきていると言えるでしょう。
3.今の法律事務所職員に求められる3つの能力
(1)パソコンやITに関する能力
今の時代の法律事務所の職員で,さすがにパソコンを使えないというのはNGでしょう。
wordを使って文章を作成することはもちろん,Excelもある程度使いこなせなければなりません。
また,事務所内の連絡や弁護士のスケジュール管理なども専門のアプリを使って管理しているところが多いので,このようなアプリを使いこなす能力も求められます(うちの事務所では,サイボウズというアプリを使っています)。
さらに,事務所のホームページの管理なども必要となる場合があります。
その上,このコロナ禍の状況で,弁護士業界もリモートワークの研究が進みつつありますので,今後はそうした意味からも,ますますITの能力は要求されるものと思われます。
(2)法律や手続きなどの専門的知識・経験を習得する能力
法律の知識や特に法的手続きに関する知識・経験が求められます。
最近では,上記で書いたように,強制執行や破産の手続きなどをまるっと職員さんにお願いすることも多くなっています。
その他にも,裁判所に収める印紙代や郵便切手代はいくらかとか,送達にかかる費用がどうだとか,細かい手続き的な知識が要求されます。
ですから,民事訴訟法や民事執行法,破産法などの手続法の知識を習得するとともに,実務の経験を積むことが求められます。
さらに,会計を任される場合には,簿記の能力や,決算書を作る能力なども求められます。
(3)様々な業務を臨機応変に処理していく事務処理能力
このように,高度化,ハイテク化している法律事務所職員の業務ですが,電話対応や接客などの従来型の業務もなくなったわけではありません。
ですから,今の法律事務所職員の仕事の内容は実に様々で多岐に渡ります。
大規模事務所のように,事務職員の仕事も専門特化していれば良いのかもしれませんが,中小の事務所ではそれも難しいでしょう。
ですから,法律事務所職員は,こうした多岐にわたる様々な業務を同時にこなして行かなければなりません。
様々な種類の業務を臨機応変に処理していく高度な事務処理能力が要求されると思います。