民法を勉強しなければならない,そんな必要が出てくることがあるかも知れません。
法学部の学生であれば,通常民法は必修科目ですし,社会に出てからも,業種によっては民法の知識が必要となる場合もあるでしょう。
今日は,民法を効率的にマスターするためのコツをお話ししたいと思います。
< 目次>
1.民法とはどんな法律か?
2.民法をマスターするための5つのコツ
3.まとめ 〜目的をはっきりさせて勉強する
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1.民法とはどんな法律か?
民法は,ごく大雑把に言えば,国民・市民一般の法律関係を定めた基本的な法律です。
民法は,とにかくボリュームの多い法律で,条文番号も第1条からなんと第1050条まであります。
このような民法ですが, 大きく分けると,不動産などの所有権,売買や賃貸借などの契約関係など,市民の取引の一般的なルールを定めている財産法の分野(1条から724条の2まで)と,婚姻や親子,相続などのルールを定めた家族法の分野(725条から1050条まで)に分けられます。
このように,民法は,私たち市民が社会の中で生活していく上での基本的なルールを定めている法律ですから,あらゆる法律の中でもかなり重要な法律で,憲法や刑法などと並んで,国の基本法と言われる法律の1つとなっています。
このように重要な法律である民法ですが,とにかく非常にボリュームが多いこと,また法律の体系(作り)に特徴があってわかりにくいことから,手強い法律でもあります。
当然,民法は司法試験でも必須の科目であり,合格するためには民法を攻略することが欠かせません。
昔から,「民法を制するものは司法試験を制する。」と言われていたものです。
弁護士のような法律の専門職だけではなく,たとえば不動産業界とか,金融業とか,保険業とか,民法の知識が必要とされる業種は多くあると思います。
また,この民法が,最近約120年ぶりに大改正されたこともあり,注目されています。
民法は,私たちの市民生活や社会生活に密接に関係した法律ですので,理解できてくると非常におもしろい法律分野であると言えます。
しかし,その反面,勉強のやり方を考え,効率的にマスターすることが必要です。
2.民法をマスターするための5つのコツ
(1)早めに全体をまわす
民法の勉強で,もっともやってはいけないことは,分厚い教科書を最初から読み始めることです。
民法というのは,先ほど大きく分けて,財産法と家族法にわかれていると言いました。
もう少し細かく見ると,第1篇から第3篇が財産法,第4篇と第5篇が家族法になっていて,第1篇総則,第2篇物権法,第3篇債権法,第4篇 親族法,第5篇相続法という体系になっています。
第1篇の総則は,その後に続く物権法や債権法,場合によっては親族法,相続法にも適用される通則のようなものです。
通則というのは,全体に共通に適用される事柄をチョイスしたものであり,それゆえに非常に抽象的な内容になっています。
この,法律の一番冒頭の部分に抽象的な通則を配置するという体系は,ドイツ法のパンデクテン体系といわれる,共通部分を前へ前へとくくり出すシステムです。
抽象的で一番わかりにくいものを一番冒頭に持ってくるというのは,この辺がドイツ法らしいのですが,体系的な盤石さや美しさという機能は持っていると思いますが,わかりやすさとか,初学者に対する配慮のようなものは一切 ありません。
こうしたことを理解せず,愚直に教科書の最初の部分から勉強をし初めてしまうと,当然理解できずにすぐ挫折ということになってしまいます(実際,大学時代の私がそうでした)。
ですから,民法をこれから勉強しようという方は,まず薄いけれども全体を俯瞰することができる教科書を読むことをお勧めします。
そして,細かい部分にはとらわれず,まずは早めに全体を見るということが重要です。
(2)常に体系(目次)を意識して勉強する
このように,最初は薄い教科書で,早めに全体像をつかんだ上で,次はもう少し詳しい教科書を読んでみます。
そのときに重要なことは,教科書を読む際に,できれば教科書の目次をコピーしてそれを横に置き,常に自分はこの全体の目次の中のどこを勉強しているのかということを意識することです。
これは民法には限りませんが,法律というものは体系的に理解するということが欠かせません。
体系を理解するということは,全体像の中で自分が今どこを勉強しているのかということを常に意識し,理解する必要があります。
この体系を意識せずに勉強していると,ただただ民法の膨大な量に圧倒され,理解が遠のいてしまいます。
(3)条文は必ず引く
あらゆる法律を勉強するときに共通しますが,法律を学ぶ際には,出てくる条文については,必ず六法を引いて実際にその条文を読んでみて確認することです。
出てくる度に必ず条文は引きましょう。
法律は言葉の世界です。
法律の条文も言葉で成り立っています。
条文の文言の解釈について,見解がわかれているような問題もたくさんあります。
条文の文言にきちんと触れるということは,法律を理解するためには欠かせない 作業です。
そして,できれば,条文を目で読むだけではなく,声に出して読んでみることをお勧めします。
何より法律の条文というものに慣れますし,目だけではなく耳からも頭に入りますので,それだけ理解も早く深まります。
(4)習うより慣れる
民法はとにかく量が膨大です。
しかも,決して初学者にとってわかりやすい,とっつきやすいとは言えません。
その理由の1つとして,やはり法律用語というか,専門用語の難しさがあります。
最初の民法総則の部分だけでも,瑕疵ある意思表示,意思の欠缺,心裡留保,錯誤,法定果実,公序良俗,表見代理,追認,停止条件,解除条件,随意条件,取得時効など,およそ一般の社会から見れば意味不明な単語のオンパレードです。
これは,上記のパンデクテン体系とも共通しますが,明治維新後に突貫工事で近代的な法律を作る必要があった明治政府が,ドイツの民法をいわば丸パクリし,法律の体系だけではなく,法律用語もドイツ語を直訳してしまったため,このような意味不明な日本語になっているようです。
こういう特徴がありますので,いわば外国語を初めて勉強するときと同じようなもので,繰り返し勉強して,とにかく習うより慣れるしかありません。
(5)早めにアウトプットをする
そして,これもかなり重要なポイントです。
民法が絡む試験を受験する人は,教科書を読むだけではなく,早めに問題集や過去問などを解くアウトプットの勉強をして下さい。
民法が絡む試験といえば,司法試験だけではなく,司法書士試験,行政書士試験,宅建,公認会計士試験(選択),不動産鑑定士試験,公務員試験などいろいろありますし,法学部の学生も試験を受ける必要があるでしょう。
早めに試験の形式に慣れておくというのが,マスターする近道です。
早めにアウトプットを経験してインプットに戻ると,非常に効率的に勉強することができます。
過去問などでアウトプットの練習をすると,実際の試験で出やすいところとそうでないところがわかりますし,試験に出る知識についても,どのような形で問われているかがわかります。
こうしたことがわかって意識しながらインプットに戻れば,必要な情報を重点的に勉強しようという意識が働きますので,非常に効率的に勉強できることになるのです。
3.まとめ 〜目的をはっきりさせて勉強する
なぜ民法を勉強するのかという目的をはっきりさせることが重要です。
試験に合格するためということであれば,その試験に合格するために,どの程度の水準までマスターしなければいけないのか,それぞれその試験で求められる水準が違います。
また,試験ではなく仕事で使うという場合も,それぞれの業種によって必要となる知識も 異なるでしょうし,必要となる知識の深さも違うでしょう。
勉強というものは,確かに愚直な努力も必要となりますが,目的やコストパフォーマンスをきちんと考えて,効果的な勉強方法を実践していかないと,民法の膨大な量に溺れてしまい,結果的に途中で挫折してしまうことにもなりかねません。
やはり何のために勉強するのかという目的意識は常に持つようにした方が良いと思います。