中小企業の取引においても、各種様々な契約書が作成されます。
しかし、意外とこの「契約書」について、法律的に正しくない、間違った常識がまかり通ってしまっています。
よくありがちな、契約書についての間違いについて見ていきたいと思います。
<目次>
1.そもそも「契約書」を作る必要があるのか?
2.タイトルは「契約書」でなければならないのか?
3.意外な書面も法的には実は契約書!?
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1.そもそも「契約書」を作る必要があるのか?
契約書にありがちな1つの誤解として、そもそも「契約書」という書面を作らなければ、法的に契約が成立しないのではないかといったものがあります。
この点、改正民法の522条1項では、契約の成立について、「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示・・・に対して相手方が承諾したときに成立する。」と規定されています。
つまり、契約が成立するためには、原則として申込みの意思表示に対して、相手方がそれを承諾する意思表示を行えばよく、必ずしも「契約書」という書面を作成する必要はありません(改正民法522条2項)。
つまり、口約束であっても法律上は原則として契約は成立するということです(ただし、保証契約等の一定の契約については、法律上契約の成立要件として例外的に書面の作成が要求されているものもあります)。
それならば、なぜ契約書を作成することが多いのかといえば、いつ、誰が、どのような内容の契約を締結したのかということの証拠を残しておくためです。
すなわち、将来契約をした当事者間で紛争が生じて、裁判に発展したような場合には、いつ、誰が、どのような内容の契約を締結したのかについて、最も有利な証拠となるものは契約書です。
それ以外にも、契約書の機能としては、当事者の合意内容を明確化したり、将来、契約書の解釈をめぐってトラブルが発生することを防止することなどが期待されています。
したがって、法律上は必ずしも契約の成立要件として「契約書」という書面を作成することは要求されていませんが、将来的な紛争を予防したり、万が一紛争になった場合に、自分に有利な証拠を残すためにも、契約書は作成しておいた方が良いということになります。
2.タイトルは「契約書」でなければならないのか?
それでは、「契約書」を作成することが重要であるとして、その書面は「契約書」というタイトルの書面でなければならないのでしょうか?
実務上では、「契約書」という書面の他、「合意書」とか、「覚書」、「念書」などとタイトルが書かれた書面もよくあります。
噂レベルでは、「契約書」というタイトルの書面よりも、「●●に関する覚書」とか、「●●に関する念書」などといったタイトルの書面の方が契約書としての効力・拘束力が弱いのではないかと言われることもあります。
この点、法律上は特に契約書のタイトルの決め方についてのルールは定められていませんので、どのようなタイトルの契約書にするかは当事者間で自由に決めることができます。
そもそも、上記1で見たように、原則として契約書の作成は法律上の義務ではなく、むしろ契約書を作成するのは、いつ、誰が、どのような内容の契約を締結したのかという証拠を残すというところに主目的がありますので、タイトルはあまり重要ではなく、契約内容を忠実に書面に残すということが重要になってきます。
すなわち、「契約」とは、当事者間における法的な権利・義務に関する合意のことをいいます。
そして、この契約の内容を書面化したものを「契約書」といいますので、当事者間の意思が合致した内容が書面化されていれば、タイトルのいかんにかかわらず、いずれも法的な「契約書」に該当することになります。
したがって、「契約書」、「覚書」、「念書」といったタイトルの違いによって、合意内容の効力の強さなどに影響するということはありません。
3.意外な書面も法的には実は契約書!?
このように、契約書とは、当事者間の合意の内容を書面化したものですので、こうした「契約書」、「合意書」、「覚書」、「念書」といったタイトルの書面の他にも、様々な書面が法的には契約書に該当します。
たとえば、よくあるのが交通事故事件などで、加害者と被害者との間で示談が成立し、「示談書」を作成することがあります(多くは損害保険会社が代行して行いますが)。
示談では、加害者が支払うべき損害賠償金の金額や支払時期などが記載されており、これらの点について加害者と被害者との間の合意を書面化したものが示談書ですので、示談書も法的な契約書に該当します。
また、同様に、争っていた当事者間で和解が成立したときに作成する「和解書」も同様の理由で法的な契約書に該当します。
それ以外にも、離婚する当事者間で作成する離婚協議書も、離婚の他、財産分与や慰謝料、子どもの親権や養育費等に関する当事者間の合意内容を書面化するものですから、契約書の一種です。
さらに、遺産相続に関して、相続人同士で遺産分割の内容について合意する遺産分割協議書も、契約書の一種ということができます。
ただし、あくまで当事者間の合意の内容を書面化したものが契約書ですので、たとえば遺言者の意思を記載した遺言書や、一方当事者のみが作成する請求書などは契約書には該当しません(ただし、請求書は、契約の存在を推認させる間接的な証拠になる場合があります)。